short

□スキ
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「こんばんは、名前嬢」


あの日と同じ、満月の夜。
今日は新聞もテレビもキッドの予告のことで騒いでいたから、今夜、ここに現れると思っていた。
そうしたら案の定。
怪盗キッドは、私の部屋のベランダに舞い降りたのだった。


『何の用、怪盗キッド』
「おや、今日のあなたはなんだか冷たい」
『まるでいつもの私を知っているような口ぶりね』


キッドは顔色一つ変えず、私の方を見つめている。


『いったい何しに来たの』
「前に予告した通りですよ。私はあなたのファーストキスをいただきに来たのです」
『…残念ながら、私のファーストキスは、もう奪われちゃったんだから』
「おやおやそれは残念だ」
『……え?』


あれ?
人のファーストキスを奪っておいて!こんなに私の気持ちをかき乱しておいていったいどういうつもりなの!
って、たくさん文句を言いたかったのに、なんだか拍子抜けしてしまった。
この前キスしたのは、キッド……いや快斗じゃなかったの?
私の勘違い?
それよりも、もしかしてキスされたと思っていたこと自体が間違っていたの?

そう思うと、途端に恥ずかしくなってきた。
赤くなった顔を見られたくなくて、キッドに背を向けた。
その瞬間、背中にぬくもりを感じた。
白に身を包んだ腕が私の前に回されていた。
キッドの顔が私の方の上、顔の横まで近づいてきた。


「どうかなさったんですか?名前嬢?」


耳元で、キッドが囁くようにして私に話しかけてきた。




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